TOWER

OFFICIAL SITE
ログイン TOWER SUPPORT CENTER 登録(無料)
ちんのマガジン「重夫」

2026.03.11

改良3

努力は裏切るし、才能は無情で、怠惰は必ず跡をつけてくるから、結局毎日頑張れるかどうか調子のサイコロを振ってるだけですやんと思ってしまう日は、逆にラーメンにチャーシューをトッピングしない。

ガキの頃にジャンケンに5連勝したら景品がもらえるゲーセンの筐体で遊んでいて,4回目で負けすぎていることに気づいて,あぁ、これは確実に5回連続で勝てないようにイカサマが仕掛けられてるコンピュータなんだなとお年玉の1万円を全て溶かした後に気づいた。
景品のゲームが取れなかったことよりも、5勝目が取れなかったことよりも,手に汗握ってもぎ取った4勝が嘘だったことにひどく傷ついた。

俺は自分の子供の頃を美化している人間がかなり苦手なんだだけど,あの時ジャンケンのゲーム機の前で絶望してるリトルちぃちぃの前に立たされたら乱暴に抱きしめてしまうと思う。

パチンコ中毒だった親父を持っていいるのにギャンブルに縁遠いのはその原体験が確実に関係してるから,1万円で済んで良かったのかもしれないけどね。

時は経ち,2020年
ヤングちぃちぃは芸人を名乗ってはいるものの舞台に立つこともなく、ウーバーイーツで稼いだ金でラーメンを食ってるだけのデブだった。
変化を恐れてお笑いの道を踏み出せずにいるくせに、追加のトッピングでラーメンの味は変化させていた。
かき乱せ!追加ネギ!と思いながら券売機を押す指に弱い魔法をかける日々。
いつものようにマックの商品を配達していたら、注文者が不在で廃棄になった。
廃棄になった商品は配達員が食べるか捨てるかしないといけないんだけど、量が多すぎるから両国橋の下のホームレスの方にハンバーガーをあげに行った。

善意とかじゃなくて,それがあるとバックが狭くなって配達できないから。

なんか良いことしてるみたいで嫌だなと思いながら、7月の昼下がりの日差しを避けるように橋の下に降りていく。

木材と段ボールとブルーシートを組み合わせたバラックのような建物の前で体操をしていた老人にこれ食ってくださいと言ってマックの袋を差し出す。

ホームレスの方は律儀にお金を差し出してきて、ハンバーガーのセット1個分なのに,くしゃくしゃの3千円を出してきた。要らないと言っても聞かないから,お釣りと言って自分の財布から2000円返したらそれは素直に受け取ってくれた。

それから別の注文が来るまでしばらくそいつと話していた。

浅草寺のテキ屋のバイトがあるからそんなに不自由してないこと、ホームレスの中にもコミュニケーションを求める人と完全に閉鎖的で塞ぎこもっている人がいて、後者が気に食わないこと、どこから引いてるのか知らないけどビニール小屋ともテントともいえない家の中には電気が通っていることなんかをほとんど一方的に話していた。

自分も芸人をやっているが、そもそも舞台に立ててすらいない鬱屈さを、持たざる者につけ込んでネットの掲示板のように吐き出してやろうかと思ったけど,想定より相手が健康的で、本当に最悪なんだけどもう少し絶望してもらってないと調子が出ないなと思って言葉を持て余していたのを覚えている。

ずっと配達の仕事をしているのか?と聞かれたから,普段は芸人やってるんすけどイマイチっすねぇ〜と答えた。

『芸人さんねぇ。あれも運だよね。一発ギャグかなんかで当たれば良いけど。それがなきゃ厳しいよね。』
老人がそう言ったのを聞いて、
あぁ、マジでそれは違う。と思った。その日はそれからウーバー中ずっと、マジで違うけどな。とぶつぶつ言いながら自転車を漕いでいた。そのホームレスに怒っていたわけではない。そこまで知らない個人に期待してないし。人間は仮想敵を作って怒ってる時が1番悪性の暇に取り憑かれてると思うから。

なによりちぃちぃは、その日どころかそのひと月前から舞台に立っていないからお笑いが運だと言われても怒るための参加資格が無い、変化への恐怖という紐に縛られたただのチャーシューだったのである。

運ゲーとか言われてんのに、子供の頃のちぃちぃを絶望させたあのクソな筐体と一緒くたにされたのに俺怒る資格ねぇじゃん。と思ったらどんどん悔しくなってきた。

怒る資格がないほど酷い状況にいる自分が面白くなってきて笑えるなと思って声に出して笑ってみたら,その笑い声に無性にムカついてかなり迷惑なスピードで靖国通りを走っていた。

明日何かを始めるための助走みたいな気持ちでペダルを漕ぎまくる。
神保町の豚大学という豚丼屋の前を通った時に『豚大学…?』と思って少し減速したりしながら。
スマホから断続的に鳴る注文の通知音を無視して、何度も靖国通りを往復する。
豚大学の食券に印字された『豚丼1500g(修士)』の文字を見て『修士…!』と思い、タレと脂の甘みに魅了されたりしながら今日このまま配達を続けたら大事なものを失ってしまうと思って、チャリの調子が悪くなるまで走った。
その日の夜に手当たり次第にいろんな事務所にメールしていなかったら今は別の仕事をしているかもしれない。
今でも両国とか、靖国通りのあたりのオフィス街を歩くと懐かしい気持ちと胸のザワザワが新鮮に蘇る。とにかく勝負の場に立ちたいと思っていたあの気持ち。

嫌になるくらい忙しくなってみたい。と思いながら飯を運んでいたあの時期を忘れたくない。

スープにパンチのあるラーメン屋を知ってることだけしか自分に価値がないと思える夜もある。
またいつかそういう夜が来ても1から始めればいいんですわ。運ゲーじゃない確かな1勝目が大事ですから。

続きを読むには

このコンテンツは会員限定です。
全文をご覧いただくには、
会員登録またはログインが必要です。